妙に等身大な殺人シェフの風刺ホラーコメディ『The Menu』レビュー

オススメレビュー

残虐な狂気の天才である殺人鬼になぜか共感してしまう不思議な映画

怖がりなんで普段は絶対ホラー映画なんて見ないんですが
あまり聞いたことのないホラー・コメディーというジャンルが気になって
「ザ・メニュー」という映画をみました

ホラーとコメディーって水と油みたいに混ざり合わないものだと思ってたんですけど
結果からいうと、どちらの要素も強すぎることなく絶妙なバランスを保った作品でした

予約のとれない超高級レストランを訪れるカップルの視点から物語は始まります
そのレストランは孤島にあり、送迎の船に乗りこんで成金風の若者や美食評論家などの
癖の強いお金持ち達と一緒にレストランへと向かうのですが
この時点から何とも言えないじんわりとした不気味さが漂います

レストランでは意識が高すぎる美しいコース料理が提供されるものの
メニューが進むにつれ徐々に不穏な空気になっていき、、、
といった内容です

二年ほど前の映画で私はAmazonPrimeで視聴したのですが
独特な空気感に最後まで気圧されるような作品でした

全体的にダークな内容でありつつも所々に出てくるブラックジョークは
緊張感のある状況の中でくすっと笑えるアクセントを与えてくれていて
個人的にはめちゃくちゃ満足感がある映画です

さてここからはネタバレもりもりで感想をぶちまけるんですが
この映画の個人的な見どころとしては

  • 首謀者であるシェフの妙な人間らしさ
  • 主人公風の男タイラーへの印象の変化
  • そして異物であるヒロインマーゴの扱い

上記の三点だとおもっています。

まず序盤から中盤は首謀者であるシェフが狂気を発揮していく様に
怒りに狂った化け物のような怖さがありました

ただ物語が進んでいく中で、評論家や店のオーナーへの怒りはともかく
久しぶりに取れた休みの日に見てしまったクソ映画の主役であったり
特に接点のない裕福なエリートを殺そうとしていたりと
わりと無茶苦茶な理由で獲物を選んでいたりとどこか憎めない化け物へと変わっていきます
(化け物には変わりないですが)

その一方対比するように中盤まで主人公と思っていた男性が
時間が経つにつれ余りにもナチュラルに狂人化していって笑ってしまいました
最初はウンチクがうるさい美食好き程度の印象だったのですが
店の哲学に感動してる割に禁止されている写真を撮りまくったり
人死にが出ても気にせず料理を食べ続けたりとやりたい放題です

そのうえ最終的に明らかになるのですが
この男の元恋人がシェフにとっての本来のターゲットであり
この男は自分を含め参加者が全員殺されるという計画を聞かされ
その女性を連れてくるために招待されていました

一人だけ事前に何が起きるかを知った上で
料理へのあこがれだけでこの殺人レストランを訪問していたわけです

命と引き換えにしてでもシェフの料理を食べたいという時点で
あまりにも意味が分からない行動原理ですが
この男の狂気はそれだけでは収まりません

レストラン訪問の直前に元恋人に振られたため
殺されることが分かっているのに
別の女性を雇って食事に来ていたという暴挙が発覚します。

どう考えても首謀者のシェフよりはるかにこいつの方がやばい人間性をしています

そしてそのグルメ至上主義の化け物のせいで
全く関係のない殺戮ショーに巻き込まれたヒロインのマーゴですが
最初から異物として入り込んだ彼女は唯一何の罪のない参加者のため
死の結末は変わらないが客側か店側どちらとして死ぬかを選ぶように問いかけられます
(冷静に考えると他にも罪がない人はいますがシェフの圧で視聴中は一切気になりませんでした)

最終的に彼女は狂ってしまう前のシェフの料理を注文することで
シェフ本人すら気が付いていなかった歪さを言い当て、見逃されることになります

料理の上辺しか見ていなかった成金や評論家とは違い
マーゴだけが料理とそこに込められた思いを感じ取れていたという王道展開ではあります

しかしこの映画がただの王道とひと味違うのは
狂う前の料理人としての自分を思い出しマーゴを見逃した上でもなお
マーゴ以外の人間に対しては変わらず計画を遂行する
シェフの一本筋の通った狂人っぷりが印象的でした

高尚なコース料理の説明は理解が難しく、マーゴは何度も眉をひそめていましたが
最期のチーズバーガーの注文の際には打って変わって常連のような注文の仕方になります

ここの二人の会話は緊張感がありつつも小気味よく
即興のセッションのようなカッコよさがありました

シェフはこの会話中も大きく表情を変えることありませんが
満足のいく本当のお客さんに出会えたというような雰囲気で
じっくり肉を焼く様子は天才シェフになる前の
普通のハンバーガー屋だった頃を思わせる作中で一番の調理シーンです

それまで出てきた料理はどれも美しいものの
温度が感じられない鑑賞用の美術品の様でした

しかし最後のチーズバーガーは派手さはないものの
熱や肉の香りまで伝わるような一品でシェフの作りたかったものがよく表現されていました

ラストシーンの無言でチーズバーガーを頬張るヒロインを見ていると
無性に自分も昔ながらのハンバーガーを食べたくなる良い映画だったと思います

間違いなく面白かったですが一点だけ注意点として
ホラー・コメディーというジャンル分けが適切かは若干疑問があります

クスっと来るシーンはどれも印象的ではあるものの全体の5%あるかどうかですし
不気味な雰囲気ではあるもののホラーと言ってもオカルト的な要素は皆無です

あくまでも等身大な人間が軸にあるサイコホラー的な作品でした

逆にいえば夜眠れなくなるようなおどろおどろしい内容ではないですし
二時間弱で見れるため私みたいにホラー苦手な人がチャレンジするのにおすすめの映画です

※大筋とは関係ないけど庶民向けのオーソドックスなチーズバーガーの値段
日本円換算で1500円くらいして為替の残酷さに一瞬真顔になっちゃった

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