投資にハマっている人全員に読んでほしい小説『Phantom ファントム』レビュー

オススメレビュー

将来の資産を考えてニヤついたことのある人は全員この本を読むべきです

資産形成中心の生活を送る主人公の思考にあまりにも心当たりがあり過ぎて
背中に汗をかきそうになりました

ストーリーの大きなネタバレは避けていますが要所要所の感想は述べているのでご注意ください

『スクラップ・アンド・ビルド』で有名な羽田圭介さんの小説『Phantom』は
低収入ながら節約で浮かしたお金を高配当株に注ぎ込むことで
いずれ配当収入だけで生活できるほどの資産を目指す女性・華美が主人公です

私はインデックス投資派ですしその他にも細かい違いはあるものの
作中に出てくる華美の行動はあまりにも自分と重なって全く他人事とは思えません

例えば下記は華美の行動の一部ですが心当たりがありませんか?

眠れない日に年利5%で資産が増えると将来いくらになるか考える
出費の際にそのお金を投資に回したらと一度立ち止まる
長期運用のみのつもりが短期投資に
手を出して火傷する

などなど、どれも頭の中を覗かれているのかと思うほど
リアルな投資中毒者の描写が続きます

印象的なシーンは多いですがその中でも特に考えさせられたのが
華美が投資セミナーに行くエピソードです

年配の投資家三人に話しかけられますが、彼らはみな安い服に身を包み
食事や趣味といった日常も全て節約重視の生活を送っていると話します

それだけならただの貧乏な老人ですが資産額を聞くと皆一億円を超えていると言います

圧倒的な資産を持った彼らですが華美はテレビで見た生活保護特集を思い出します

『受給者たちの生活と、ここにいる配当生活者たちの生活様式が、
  ぴたりと重ね合わさる』

ある種自分の理想であるはずの莫大な資産による配当生活者が
生活保護受給者と重なるという描写は
非常にグロテスクかつリアルな感想として私の胸に刺さりました

前提として生活保護自体は必要な制度だと思っていますし
受給者を批判する気も馬鹿にする気もありません

しかし人生をかけ、今の出費を切り詰めに切り詰めて資産形成を行った結果
成功した理想の終着点が生活保護受給者と同じ生活というのはあまりにも救いがありません

こういった描写だけでも今一度、投資との向き合い方を考えさせられますが
この小説の凄いところは単に投資中毒者をあざ笑うだけではないことです

華美の彼氏である直幸は華美とは対照的な人物で
怪しげなインフルエンサー【スエさん】を信奉し
自己投資として身の丈に合わない浪費を繰り返します

アップデートされた人たちが集まる有料会員コミュニティを作る怪しさ満点のスエさんの言動は
実在のインフルエンサーの顔が何人も浮かんで思わず笑ってしまいます

直幸が語る思想はどれも借り物のようで薄っぺらいものが多いですが
それを批判する華美も他人事ではなく
意味も分からず投資用語を使ったり、投資の利益が出る理由を知らなかったりと
方向性が違うだけで似た側面が見えてきます

読者として彼氏の直幸をのんきに笑っていただけに
物語の中で自分と重ねてきた華美が実は直幸と反対の存在ではなく
信奉する対象がスエさんか投資かというだけの同質の人間であることに気が付くと
笑っていた自分にとっても対岸の火事ではなかったとゾッとしました

経済学は運や人の心理が大きく影響するため絶対の正解というものがありません

経済理論をそれなりに勉強したうえでも
最終的には本人が信じられるかというある種の宗教的な側面を指摘されているようで
自分の軸が本当に確かと言えるのかを考えずにはいられなくなります

華美も徐々に自分の思考に疑問を持ち、中盤からは出費を行う描写も増えてきます

しかしただ単純にお金は使うべきという説教くさい印象は受けません

なぜなら華美の消費行動はむしろお金を使いなれていない人間のリアルさがあり
普通の人なら躊躇するような無駄金を使う場面が多く感じました

無駄金を使うシーンで長年培った自分の中の投資中毒者が
(そんなことにお金使うのもったいないと顔を出すたびに
序盤の華美と自分の思考が重なる事を証明するようで苦笑するしかありません

この小説を呼んだからと言って投資をやめるつもりは毛頭ありませんが
自分の思想の偏りやお金との付き合い方については考え直さなければと
反省させられる内容でした

ただ心理描写が巧みだった分、傭兵のくだりが若干突飛というか
そこだけ物語から浮いた印象を受けた点と
ところどころ場面転換が急で一瞬混乱する点は正直気になりました

それでも各登場人物の誇張されているのにリアルな人物像いくつもの綺麗な対比構造
展開を予想させず、最後まで一気に読み進めることができました

投資にのめり込んでいる人こそ尋常じゃないほど刺さる作品なので
ぜひとも一度読んでほしいです

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