暗い題材を爽やかに映像化した傑作ロードムービー『運び屋』レビュー

オススメレビュー

今回見たのはアメリカを舞台に何百キロものドラッグを運びまくる映画「運び屋」です
そう聞くとスリル溢れるカーアクションを想像されるかもしれませんが全く違います

主人公はイーストウッド演じる90歳の老人で
偏屈だけど面倒見のいいどこにでもいるお爺ちゃんが
ちょっとしたきっかけからドラッグの運び屋へと変わってしまいます

少しずつ裏社会へと深入りしていく主人公と麻薬カルテルを追う捜査当局という構図ながら
全体を通して派手なシーンは控えめで、その分メッセージ性の強い非常に満足感のある映画でした

≫映画『運び屋』(アマプラリンク)

そんな「運び屋」の個人的な見どころは以下の三つ

・歯車が狂っていく怖さ
自由で明るい雰囲気
元ネタが存在したことへの驚き

歯車が狂っていく怖さ

まずこの作品舞台はアメリカで主人公は老人なのに
見ているとここ最近の日本を思い出さずにはいられない内容でした

というのも主人公は金に困っている時に運転するだけの仕事を紹介されて
軽い気持ちでその仕事を受けるといつの間にか運び屋にされてしまいます

報酬を見て流石にヤバい仕事だと確信して一度は辞めようとするものの
結局ずるずると回数を重ねていってしまう姿は
完全に最近話題になった闇バイトと重なるものがありました

特に薬を運ぶシーンで【一回目】という字幕が出た瞬間
「あ、やっぱりこれ今回限りじゃないのか」と
闇バイトのニュースで見た組織を抜けられなくなる若者と被ってしまいます

主人公も決して根っからの悪党というわけではなく
むしろ友人は多くかつては社会的にも成功した人物でした

どこにでもいる等身大の老人だからこそ
歯車が一つ狂っただけで誰でもこうなる可能性があると感じられて
思わずぞっとしてしまいます

自由で明るい雰囲気

とはいえこの映画全体の雰囲気は決して悲壮感に満ちた暗いものではありません

偏屈ながら憎めない主人公の性格と奔放さで
作品全体は常にカラッとした明るい爽やかさのようなものが感じられます

薬を運んでいる途中でもお気に入りのレストランに立ち寄ったり
車内で音楽を流して熱唱したりと今を楽しんでいるのがありありと分かります

ないがしろにしてきた家族との付き合い方を見つめなおす一方で
90歳にして複数の若い女性と夜を楽しんだりと
いささか自由過ぎるほどに自由を謳歌していきます

もちろん犯罪をテーマにしている以上緊迫したシーンもありますし
昔ほったらかしにしていた家族との仲も冷え切っています

それでもこの映画が明るい雰囲気を失わないのは主人公の軽口と
老人ならではの清濁併せ飲んだある種の割り切りのおかげでしょう

後悔すべきことは後悔しつつも自由に人生を楽しむという姿勢が
暗いテーマを扱いつつも自由で明るい雰囲気を保っている秘訣だと感じました

元ネタが存在したことへの驚き

ラストの展開などはこの映画を見てほしいので割愛しますが
この映画を見終わった最後にエンドロールを見ていて驚きました

この映画は元々実在の90歳の運び屋が逮捕されたという事件があり
その記事から着想を得て作られた映画だというのです

調べてみると作中に登場する主人公の経歴や異名も実在のもので
最初に感じていた徐々に歯車が狂っていくリアルさは
こういうことかと妙に納得してしまいました

もちろんアイデアのタネになった記事があったというだけで
大半は映画としての創作だとはわかっていますが
それでもこの映画の中で一番突飛だと思われた90歳の運び屋という部分について
実際のモデルがいると知ると創作物以上の現実の懐の広さを再確認できます

まとめ

お金欲しさに気軽な気持ちで引き受けた仕事から
裏社会に染まっていく様子は現在の日本で横行する闇バイトをほうふつとさせる内容で
場所や年齢にかかわらず発生しうる人類共通の問題だと感じました

一方で高齢者が裏社会に足を踏み込んでいくという非常にダークな題材でありながら
常にほのかな希望を感じるイーストウッドの明るい演技は
過去も現在も失敗続きで後悔しつつそれでも人生を楽しんでいけるという
諦観とはまた違う人生の割り切り方を教えてくれる内容でした

≫映画『運び屋』(アマプラリンク)

コメント

タイトルとURLをコピーしました